インタビュー2

株式会社BUDDYHOOD代表の大庭 聖司が、ライターの鹿倉安澄さんからインタビューを受けました。

鹿倉さんによるインタビュー記事を、前回に引き続き、弊社ブログに掲載いたします。

中小企業診断士事務所の仕事は、外部にいる人には想像しづらいものです。そこで今回は、当社の現状の仕事や今後のビジョンなどについて回答させていただきました。

中小企業診断士として働く大庭  聖司(おおば せいじ)さんは、東京都新宿区で株式会社BUDDYHOODを経営されています。

「自分には何が向いてる?」悩みながらの進学、そして選んだSEへの道

鹿倉 現在、中小企業診断士としてご活躍ですが、経営コンサルティングの仕事にはいつごろ興味を持ったのでしょうか?

大庭 大学院1年生の時ですね。慶應義塾大学の理工学研究科で機械工学の研究をしていたんですが、どうしてもこの道を一生涯の仕事にするイメージができなくて…。

大学入試でも学部選択には苦労しました。「自分にはどんな道があっているのだろう」と悩み続け、最終的に、入学後に学部選択が可能な慶應義塾大学を選びました。でも結局、院に進むまで自分の進路を決められなかったんです。

研究室では一つのテーマに1〜2年向き合い、主に1人で黙々と研究を重ね、突き詰めていきます。人とのコミュニケーションの中で課題を解決していくことに楽しさを感じる私には、研究者の道は合っていなかったんでしょうね。

そこで就活は機械系ではなく、周りの友達が受けていた大手コンサルティングファームにチャレンジしました。でも、受けに行った採用試験では、一般的なSPIが行われると思いきや、経営の問題で…。いきなり実戦問題が出されるのは想定外でした。学生気分の私には分かるわけがなかったんですよ(笑)外資系を含めて何社か受けたものの、全滅でした。

今なら、準備期間や企業研究が足りなかったのだと理解しますが、そのときは自分の無能さを思い知って、ただただ頭をガーンと殴られたような気分でした。

学校の勉強ではいつも上位にいたので、それまでペーパー試験で全く歯が立たないという理由での挫折はなかったんですよね。

鹿倉 挫折を挫折のままにせず、今につなげているのは大庭さんの強みであると感じました。新卒でIT企業でシステムエンジニア(SE)になられたのは、どのような心境の変化があったのでしょうか?

大庭 コンサルティングファームへの就職は難しいとわかったので、IT企業で1度スキルを身につけてから経営コンサルタントへの転身を検討しようと考えました。

「お客様の話をじっくり聞いて考える」のは、SEも経営コンサルタントも同じ

大庭 遠回りにはなりましたが、今ではすんなりコンサルティングファームに入らなくてよかったと思っているんです。

SE時代は勤務時間が長く、業務に追われる毎日。理想通りにはいかずストレスを感じていました。でも若いうちに、そういった場に身を置いたおかげで、自分は淡々と作業をこなすロボットのようになるのではなく、お客様や仕事仲間の気持ちを考えられる人間でありたいんだと自覚できたんです。また、中小企業診断士の受験勉強の際も「抜け出したい」という気持ちが大きなバネになりました。

SEは、お客様の要望を丁寧にヒアリングして、システムを構築していく仕事です。「お客様の話をじっくり聞いて一緒に考え、問題点と解決策を見つけ出し、行動する」という点は、経営コンサルタントも本質的には同じなんですよね。
職種は変わっていても、キャリアとしてはつながっていると考えています。

 

鹿倉 SEの仕事がお忙しい中で、中小企業診断士の勉強はいつから始めたのですか?

大庭 転職して2社目のIT企業でSEをしていた頃ですね。これまでの4年間でSEとしては高い評価をいただいていたので、満を持してコンサティングファームに転職しようと考えました。

やはり「企業の課題を見つけ、ともに解決していく」仕事は魅力的で続けていきたいと思っていました。そして、ITを介してだけでなく、もっと幅広い支援ができるコンサルタントを目指したいと改めて思ったんです。

でも転職活動を始めると、当時すでに28歳かつ無資格では、採用への道のりは険しいと知りました。コンサルタントになるには、まず資格が必要だと思い、それはもう死ぬ気で勉強を始めたんです。

鹿倉 中小企業診断士資格はかなりの難関だと聞きますが、働きながら勉強時間を捻出するのは大変ではなかったんですか?

大庭 基本的には「残業は効率が悪いのでしない」と決めているのですが、とにかく忙しく、残業せざるを得ず、体力的にも精神的にも非常につらい時期でした。

終電で帰宅する日々、平日の勉強は通勤電車の中だけ。立ちっぱなしの満員電車、顔の前でなんとか開いたテキストは、そう簡単にはめくれないんですよ。

でも、それがかえってプラスに働いて(笑)同じ問題を見続けるので、ほぼ暗記してしまって、問題を高速で回せるようになったんです。

勉強は、この往復3時間の通勤時間でほとんど済ませました。試験は7科目あるのですが、情報システムは免除、6科目に絞り、1次試験は4か月ほどの期間で突破できたんです。

今もう一度同じことをしろと言われても無理ですが、その頃はとにかく「今の状況から抜け出したい」と強く思っていたので、短期間での合格に結び付いたんだと思います。

鹿倉 そういう時代があったからこそ、今の大庭さんの物事に対する柔軟さや周りに左右されない強さがあるんですね。

ところで、SEから中小企業診断士への転職は、珍しいのではないですか?

大庭 いえ、意外に多いんですよ。周囲を見渡すと、IT企業や金融の出身の方が多い印象です。個人的には、理系でないと務まらない業務が多いのではないかとさえ思っています。

中小企業診断士は数字を多く扱うというのもありますし、ビジネスモデルを描くにも「田中さん」「鈴木さん」といった具体的な人物ではなく、主に「30代女性」「既婚男性」など、抽象化したデータで考えます。抽象化は実はシステム構築で必須の知識なんですね。加えて、数字に強くないといけません。事業計画や投資効果などは全て数値で考えますからね。

「公的機関」から広がった講師の仕事

鹿倉 独立とほぼ同時に、LEC(東京リーガルマインド)の講師になったそうですが、どのような経緯だったのでしょうか?

大庭 高校生の頃の夢は、講師になることと書籍の出版でした。中小企業診断士の資格を取ったら、「講師の仕事ができるかもしれない」というのも魅力のひとつでした。

だから、試験に合格してすぐに資格予備校講師の採用試験を受けたんです。でも、いくつか受けた予備校はすべて不採用で自信をなくし…。「LECもダメかも」と思っていたのですが、合格。あの時はうれしかったですね。

今思うと、独学で中小企業診断士資格を取得した私と、マニュアルに頼らないLECの授業形式の相性が良かったのかもしれません。

鹿倉 LECだけでなく、金融機関の集合研修でも講師をされているとか。

大庭 そうなんです。公的機関で相談員を担当していたのがきっかけです。ここで信用金庫の方や商工会議所の方と一緒に仕事をする機会が増えて、「相談以外にもセミナーや集合研修をお願いしたい」といわれるようになり、集合研修やセミナーの仕事が増えていきました。


鹿倉 運営母体が東京都信用金庫協会に変わってから依頼が増えたのはなぜですか?

大庭 東京都信用金庫協会は、東京都にある24の信用金庫をまとめてるんです。信用金庫同士情報交換しているのか、相談員として好評だと、その噂が広がって複数の信用金庫さんから直接講師の依頼がくるようになったのです。

中小企業診断士は経営者の方と一対一で話す機会は多いのですが、通常は大勢の前で話すことはほとんどないんです。私のように講師経験のある診断士は少ないので、その経験が評価されているのかもしれません。

鹿倉 講師の仕事が新たなお仕事につながっているんですね。

補助金申請サポート、採択率8〜9割の秘訣とは

鹿倉 現在、中小企業経営者の方々からは、どんな依頼が多いのでしょうか?

大庭 今年に関しては、補助金・助成金の申請サポート依頼が多いですね。対象としているのは、経産省が運営する、事業再構築や設備投資などに関する補助金・助成金です。

鹿倉 大庭さんにすべてお任せできるのなら、安心ですね。

 

大庭 それはちょっと違っていて。私たちが行うのはあくまでも「サポート」、従業員名簿の用意や申請処理の手続きなど、経営者の方がご自身で手を動かさねばならない作業もあります。丸投げできるわけではないんです。

それに最近は遅れていたオンライン化も進んでいて、ある程度のITリテラシーも必要になってきています。

はじめに事業内容を正しく詳細にお話しいただきますから、私たちに伝えるための資料が必要になる場合もあります。この工程を省いたら、採択率が下がりますし、後で自社で実施する業務があることに気づいて大変な思いをすることになります。

鹿倉 「丸投げできるわけではないのか」とがっかりされる方もいるかもしれませんが、プロに依頼するためにはそれなりの準備が必要だと言われれば、納得です。

大庭 慣れない事業計画書をお一人で作成されるのは大変です。ご自身で一部の業務を実施しなければならない点はご負担かもしれませんが、支援者として中小企業診断士がそばにいるのといないのでは天と地ほどの差があるでしょう。

私たちとお話しする中で自社の事業を客観的にみられるようになりますから、手間がかかってもやる価値はありますよ。

もちろん採択されるために全力でサポートしていますので、当社の補助金・助成金申請の採択率は8〜9割です。

鹿倉 補助金の種類にもよりますが、5割にも満たないケースもあると聞きます。それを考えるとすごい採択率ですね。

現在、さまざまなお仕事を担当されていると思いますが、経営コンサルティングの依頼では得意な業種はありますか?

大庭 経営コンサルタントとしてのキャリアは10年以上、幅広い業種・業態のコンサルティング経験があります。よくわからないのはお墓と保険くらいでしょうか(笑)

その中でも製造業は、大学院で機械工学の研究をし、仕組みを理解していますので得意分野です。また、最近はコロナ禍の影響もあり、ネットショップの立ち上げやECサイトの運営も含め、小さなメーカーさんからの相談も多くなりました。

鹿倉 では、お断りしている案件はありますか?

大庭 本当に申し訳ないのですが、お付き合いのあるお客様からの依頼でも「事業承継」に関わる業務はお断りしています。大きなお金が動くことは確かなのですが、私はこのような仕事は税理士や弁護士の世界だと思っているんです。

次世代を担う中小企業診断士の育成にも力を入れていきたい

鹿倉 現在は依頼があっても人手が足りず、一部お断りしなければならない状況にあるとうかがいました。今後、中小企業診断士の採用予定はありますか?

大庭 お断りするのは心苦しいのですが、質の高い仕事ができないのにお受けするのは無責任だと思っているので仕方がない部分もあり…。急いでいるわけではありませんが、当社のカラーに合った人材が見つかれば、採用したいと思っています。

私は9年後に50歳になります。それまでに社員数10名くらいの組織にするのが目標です。「私の事務所が大きくなることで幸せになる中小企業が増えて、日本のマーケット全体が潤っていく」というのが理想なんです。

鹿倉 若い中小企業診断士さんが入社したら、どんな仕事を任せてもらえるのでしょうか?

大庭 当社なら、1年目から他の事務所ではまずできないような体験ができると思います。

提携している金融機関が多いので、さまざまな業種のお客様との出会いがあります。最初は私に帯同してもらい、万全なサポートをしますので、どんどん挑戦してもらいたいですね。

例えば、芝信用金庫さんと書面による業務提携を初めてしたのは当社BUDDYHOODです。他の金融機関でも「飲食店の新商品開発に関する無料の相談会をやらせてください」とお願いすれば、すぐに開催させてもらえるような関係性を築いていますから、新人の診断士でもいいアイデアがあれば内容によって採用し、チャレンジしてもらうことも可能です。

鹿倉 大庭さんのサポートがあれば、経験の浅い若手でも活躍するフィールドを広げられますね。

現在は数名のスタッフの皆さまが在籍していらっしゃるとか。大庭さんの作業スピードについていけるくらいですから、能力の高い方々なのでは?

大庭 手前味噌ですが(笑)うちのスタッフは、非常に優秀だと思います。そして、当社を選んでくれた人材を余計なルールで縛りたくはないので、勤務時間や服装はかなり自由です。効率よく働いてもらいたいと思っているからこその工夫ですね。

今日は写真撮影があると聞いたのでスーツを着ていますが(笑)、短パンにスニーカーと、ラフな格好の日もあるんですよ。ストレスのない服装でいれば、集中して一気に仕事を終わらせられます。

スタッフの勤務時間が9-17時の7時間なのは、それ以上働いても効率が上がらないからです。残業は作業効率が落ちるので、基本的にさせません。

家庭の都合もそれぞれなので、勤務時間も絶対ではなくて、好きなように出勤してもらっています。

鹿倉 優秀な人材あっての「自由」なんですね。大庭さんに食らいついていくのは大変かもしれませんが、BUDDYHOODはスタッフにとってキャリアアップしやすい環境だと感じました。

大庭 まずはBUDDYHOODで経験を積んで、いずれ独立してもらうのも全然アリだと思ってます。私自身、何度か転職し、やっと自分の道を見つけていますから。

もちろん中小企業診断士1〜2年目でも起業はできますが、コンサルティングの経験も人脈も、全くない状態からのスタートになります。お客様と契約をしたくても、コンペで経験豊富な事務所と戦って勝たないと始まりません。

鹿倉 優秀な人材に囲まれて働けることが約束されている環境は、向上心がある人にとってはありがたいですね。

大庭 成長したいという意欲が高い人は歓迎しています。積極的に話をしたいですね。うちに入るつもりがなくても、中小企業診断士としての今後に悩みがあるのなら、話を聞きますよ。

鹿倉 環境もそうですが、大庭さんとお話ししていると、仕事に対しての誠実さや真摯な姿勢を感じて、「一緒に働いてみたい」「もう少しお話を聞きたい」と思ってしまいます。

ちょっと話は逸れてしまいますが、デスク上にあるチラシがずっと気になっていまして…。

大庭 目に入っちゃいましたか(笑)これは「高級なお肉を1頭買いしてみんなで割り勘にしましょう!」というコンセプトのクラウドファンディングのチラシなんです。

これもお肉問屋さんのリクエストで補助金を利用して構築した自前クラファンのサイトです。

実は「お肉検定1級」を持っていて、お肉には並々ならぬ情熱を傾けています。ほかにも今度、ねこ検定も受験予定でして…。

鹿倉 そんな一面をお持ちとは!業務に関する資格だけでなく、「学ぶ」のが本当にお好きなんですね。尊敬します。

最後に、これからチャレンジしてみたいことはありますか?

大庭 未来の起業家へのサポートを積極的にしていきたいと思っています。

友人の息子さんですが、10年後の起業を目標に、「いま実行していることは正しいのか?」「必要な準備は何があるのか?」など悩みを持っているそうなので、行動に繋がる具体的なアドバイスをしようと思っています。私も友人も、彼がどう成長していくか楽しみにしています。

若い世代の考えに触れると「負けていられない」と、私も気が引き締まり、いい刺激になります。

鹿倉 話の端々で大庭さんの論理的思考の鋭さに驚かされました。それに甘んじることなく、コミュニケーションを取りながら関係を築いていくことを大切にしていらっしゃる様子に「だから大庭さんを慕って、人の輪が広がっていくのだろう」と思いました。

本日は貴重なお話、ありがとうございました。書籍の出版、楽しみにしています!

大庭プロフィール

プロフィール
大庭 聖司(おおば せいじ)

慶應義塾大学院理工学研究科修了。SEとしてIT企業に勤めていたが、2011年中小企業診断士登録とともにLEC中小企業診断士の専任講師に就任。4月にOHBAコンサルティングを立ち上げ、独立した。2014年より東京都よろず支援拠点コーディネーターとして活躍。2015年、株式会社BUDDYHOOD設立